人間らしい生活を送るためのバリアフリー住宅の考え方

1、安全、快適、清潔、外出。介護者にとって楽な介護が出来るように。

 長年、住み慣れた家を離れた理由は安全と外出しにくい事でした。誰もいない時に火事でもあったら、死ぬしかないなと覚悟していました。家庭での危険は火事、家庭内事故など色々ありますが百%安全を求めるのは無理としても、個人の障害の状況にあった危険から離れる事と安全なシステムに加入することはできます。

 飯塚のせき損センターの入院生活で風呂は決まった曜日に、一週間に一度入るのが決まりでした。そのままでは不潔ですから、毎日身体を拭いてもらいました。多くの人は毎日風呂に入るのが当たり前でしょう。しかし、体が不自由になると、風呂に入るためには2~3人がかりで風呂に入ることになるかもしれません。障害者と高齢者にとって風呂場・トイレ・洗面所は生活する上で大きな位置を占める事になるのです。私の周りにも脳梗塞や蜘膜下出血などで障害を受けた方が多くなりました。年をとるという事はいろんな障害が増えることです。歩けなくなったり車椅子生活者になったりすると、今の住環境では殆どの人が風呂に入ることは出来ないでしょうし、便器に座ることも出来なくなるかもしれません。それはあまりにも惨めなものです。バリアフリー住宅は快適で清潔な生活をもたらします。

 私は汗が出ないのと体温調整が出来ないので、外気温が適温(23~25度)でないと外出しても身体が持たないので夏冬の季節は殆ど外出を控えています。このような生理現象による外出しづらいというのもありますので、外出というのは憧れに近いものがあります。今の家は前の家と違い、平地に建っていますので、お陰さまで春秋の外気温が適温の日に散歩を楽しんでいます。

 安全、快適、清潔、外出。介護者にとって楽な介護が出来る住宅。私個人の意見としてどれ一つを抜けてもバリアフリー住宅といえないと思っています。

 

2、寝て食って排泄して、寝たきりの人生を送らないし、送らせない。

 飯塚のセキ損センターの生活で辛かったのは土日でした。土日は殆どリハビリがありませんでしたので、看護助手の方はケイ損を車椅子に乗せる仕事をしません。家族がいれば同室の家族の方も手伝ってくれて車椅子に乗ることが出来ますが、土日の殆どの時間は食事、生理現象の処理、体位交換があるだけで、ベッドの上で48時間、天井と右のカーテンと左に置いてあるテレビを交互に見る生活なのです。

 盲腸の手術のように数日ぐらいだったら、我慢できるでしょうが、一生天井と壁だけを見る生活を私達や寝たきりの高齢者にさせるのは犯罪に等しいものだと思っています。

 寝て食って排泄してというのは言葉としては適切ではありませんが、寝たきりになるという事はそういうことなのです。住宅建設は物理的な作業ですが、精神的にも快適な住宅づくりが大事です。

 

3、個人として、家族としても生活をエンジョイできる家

 飯塚に入院していたとき、20年間もケイ損の生活されている方に「20年間どんな生活送っていました」聞きましたら、「面白おかしく生活した」と言われました。私達ケイ損の面白おかしくと言う生活は普通の人の生活からすればたわいもない生活ですが、人はそれぞれそれなりの人生を送っていますから、それまでの生活を送れない精神的ショックは計りしれません。それを少しでも助ける為に、外出できにくい分、生活が楽しめる家にしたいものです。北九州市の夢設計の吉田さんの言葉を借りれば、人生応援住宅になると思います。

 

4、普通の住宅に見えること、予算も押さえること
 我が家はスロープを壁ぎわに設置していますので、外からは見えません。我が家に初めて車で来た方が駐車場からそのままスロープから来られる方がいます。スロープをスロープと認識しないところもいいと思います。
 自宅公開しても家内が「自慢できる家ではないのに」と言います。初めて我が家にきた人も、ぱっと見た目には障害者住宅だと気付かない人もいます。健常者にとっても違和感のないように建てたつもりです。寝室と風呂のリフターとスロープを削除すれば予算的に普通の住宅と予算は同じです。

 

5、将来に対応できるようにする

 私達夫婦が亡くなった後、誰が住むか分かりませんが、一階の寝室は客間になると思います。天井走行リフトをはずすだけでいいし、折りたたみベッドは取り外してもいいし、後のことを考えるとそのままにして、カーテンで隠す方法もあるし、スペース的には邪魔にならないと思います。改造も改装もする必要なく、リフトを納戸に直すだけで普通の住宅でありながら、バリアフリー住宅なのです

 

6、生活者中心の家とする。(障害者・高齢者中心の家とする)

 家族内に障害者や高齢者がいる場合、そういう方々を中心とした家にする。障害者や高齢者の寝室を南向きの風通しのよい一番よい場所に配置して、リビングの隣にするとかして、障害者や高齢者を孤独にさせてはならない。

7、寝たきりについて

寝たきりにならない、させない。

 飯塚に入院して一月がたった頃、ベッドのままでリハビリ室での最初の訓練はベッドを起こしてベッドの上で座る訓練をするのですが、ベッドを30度ぐらい傾けただけで、腕は痛む、めまいがして目の前にいる理学療法士の先生の顔が少しずつ消えていきました。これはいったいどういう事とかというと、寝たきりになると、血圧が下がり、その結果、起きただけでもめまいがするのです。そのままにしておくと、本当にベッドで座ることもできないし、本当の寝たきりになるのです。他に骨粗しょう症になる。膀胱が変形し、膀胱と腎臓の病気になりやすい。また、褥瘡(ジョクソウ)になりやすく、肉体的なものだけでなく、精神的にも気持ちが落ち込むことが本人にとっても家族にとっても、辛いことなのです。

 

寝たきりになった場合、褥瘡をつくらないようにくふうする。

 畳の部屋で壁ぎわにベッドを置き、世話されている高齢者の姿をテレビや写真で見ますが、褥瘡をつくらないために体位交換が出来るのだろうかと思うことがあります。褥瘡をつくらない為に体位交換を出来る事とベッドメイキングも出来るようにベッドの左右に介助者が入ることが出来るスペースがベッドの回りに必要です。褥瘡をつくらないベッドが福祉機器の一つとして開発されていますが、それは最後の方法です。


寝たきりにしておいた方が介護が楽であると思うのは勘違いである。

 車椅子に乗るというのは今の私にとって生きている証みたいなものです。ベッドに戻るのは私に限って言えば、夜寝る時と生理現象を処理するために横になる時、風呂にはいったあと身体を拭いてもらう時、褥瘡の防止の為の四つです。寝たきりの生活は精神的にも肉体的にも不健康なのです。寝たきりにさせておくと、介護者にあとでしっぺ返しがあるものです。