K. トイレ

 一般住宅に於いてスペースの関係で身障者用トイレを考えないと思う。それは2m四方以上ある公共の身障者用トイレが頭の中にイメージされているからでしょう。公共の身障者用トイレはプライバシーや多くの障害に合わせるためにどうしても広いトイレが必要ですが、一般住宅ではそこまで配慮する必要はありません。将来の超高齢化社会のことを考えると、ユニバーサルデザインの思想で考える必要があります。ただ、車椅子生活者がどのようにしてトイレを利用するのか知らない方(建築や設計に関わる方々)が多いので、我が家のように普通のトイレでありながら、私のような者にも使用できる身障者用トイレを造ることが一般住宅で普及していないのではと思っています。

 以下の公共の身障者用トイレ「身体機能別移乗方法の違いによる、トイレの便器とドアと車椅子の関係」を理解して、トイレ内のスペース・便器・付属品・本人・車椅子・介助者・荷物置き・方向転換など工夫して、一般住宅でも無駄なく健常者兼用の身障者用トイレを造るのは可能なのです。

 北九州市すこやか住宅推進協議会編集発行のお年寄りに優しい住宅改造「すこやか住宅」の画像を参考にしています。

 

      側方移乗
      側方移乗

図−1 側方移乗

  • 便器の側方から手すりを使って便器へ移乗。
  • 対マヒや片マヒ(左)の人の基本的なアプローチ。
  • 車イスの肘掛けは、はずれる方を使用。
  • 出入口と便器が90度だと車椅子をトイレ内で回転させないで、そのまま便器に近付けることが出来て、介助者にとって楽なのです。

     ななめ後方移乗
     ななめ後方移乗

図-2 ななめ後方移乗

  • 便器の斜め前から後ろ向きに近づき車イスの肘掛けをはずして、身体を横にずらして便器へ移乗。
  • 前から入って、中で回転して近づいてもいい。(一般住宅では無理)
  • 不全四肢マヒなどの上肢の弱い人や座位バランスのわるい人及び、セキ損のように下肢マヒだけの者の移乗方法。

ななめ移乗
ななめ移乗

図-3 ななめ移乗

  • 斜め前より近づき手すりを使って便器に移乗
  • 両上肢の強いセキ損か、2~3歩あるける人。
  • 両上肢の強いセキ損は図-2のななめ後方移乗(よこすべり)もする。

 セキ損の場合、自分で便器に移動します。手すりを利用しての斜め移動になるので、手すりは壁に堅固に取付ける。


個人住宅における車椅子専用トイレについて説明します。

 「身体機能別移乗方法の違いによる、トイレの便器とドアと車椅子の関係」の図を見て、お分かりいただけると思うのですが、車椅子生活者が車椅子から便座に移乗するのは便座の横から乗り移るのです。横滑りしたり、手すりなどを利用して90度回転して便座に座るのです。普通のサラリーマンの個人住宅で2m四方のトイレを造ることなどまず無理ですが、下の図−4の我が家の水回りで説明します。

        個人住宅においての車椅子生活者が利用できるトイレ
        個人住宅においての車椅子生活者が利用できるトイレ

図−4

 トイレの出入りを横からにして、そのドア幅を広くして、便器の前の介助スペースを確保するだけで、車イスや高齢者も利用できる普通のトイレを造ることが出来ます。トイレは洗面所からでも廊下でも室内でもよく、その家の状況に合わせて造られていいと思います。

 リビングから洗面所に入り左のトイレに入ります。リビングと洗面所の間ドア幅もトイレのドア幅も約90cmほどあり、90cm幅のトイレも洗面所を利用することにより、側方移乗、ななめ後方移乗、ななめ移乗が出来るトイレです。

 我が家の客人が我が家のトイレを見て障害者兼用と気が付く人はいません。

  • 配慮すべきポイント
  1. 安全で楽なトイレを作る。
  2. セキ損が利用できるトイレが、標準の身障者用トイレだと考えています。
  3. トイレは造ったけど、そこに行くことが出来ない。と、なりませんように。

I、位置

 トイレの位置は高齢者のために寝室の近くがいいとか、運動のために少し離した方がいいとか、いろんな考え方があります。一般家庭でトイレと寝室が20mも30mも離れたところはなく、せいぜい3m~10mくらいでしょう。つまりトイレの位置は寝室とリビングからの距離ではなく、導線の問題だと思います。家の中は、プライバシーの問題はあまりないとはいえ、玄関からストレートに見えるのはいやでしょうし、トイレや風呂に入るのに玄関内を通る導線の場合も、他人に見られるところがあります。また、寝室から尿瓶を持ってトイレに尿を捨てに行くことも考えられます。健康な人にとってトイレに行くのは、日常の一つの行為であっても、高齢者や車イス生活者にとっては一大事なのです。(ちなみにこのウェブサイトの管理人のようなケイ損の中には排便を3時間もかかる方もいるのです)

 

II、出入口(ドア)

  • 便所へ入るための通路、出入口は段差、その他の障害物がないように。
  • ドア前が十分な広さがあれば、ドアの有効幅員は85cmでよい。
  • ドアが手動式の場合には吊り戸式引き戸が望ましい。把手はレバー式か棒状のものとする。吊り戸式引き戸の場合は、扉は容易に施錠できる形式とし、非常の場合を考慮して外部から解錠できるものとする。外側に使用中の標示があるか、人が入っていることが分かった方がいい。
  • 引き戸に5~10cm四方の磨りガラスを床面から20cmと1m程度の所と、1.5m位の 三ヶ所に入れ、トイレ使用時に中の照明が見えるようにしておけば、使用中と判断できる。
  • 小さな力でも開けやすいドアを。
  • 金銭的余裕があれば、ドア開閉時に照明も連動
  • 風呂、トイレ、洗面が一体となったユニットタイプの場合、カーテンは使用しないでもいい。

 

III、便器

  • 腰掛け式(洋式)とする。ただし、床を腕ではって歩く場合は、その限りではありませんが、和式の場合、清潔に配慮することです。
  • ウォシュレットにし、操作が簡単で大きなボタンのある壁掛式のものかリモコン式が介助者にとって便利です。

 (肛門部の汚れを介助者が清拭する場合、本人の肛門部がただれる事もなく簡単に出来て、また腕が不自由な人にとっても便利である)

  • 高さはフタの無い状態で車椅子の座面と同じ40~45cmの範囲とする。足が床につく高さ。

 メーカーも身障者用に4045cmを製造しているらしい。もし無い場合は便器の下部だけ床をかさあげして4045cmとする。

☆トイレの出入り口と便器の位置と方向を間違わない事。

  • 車椅子から便器への移動がスムーズに出来るために、トイレの広さ、ドア、便器の位置と方向を間違えないように。車椅子から便器への移動を理解したうえでトイレを造ってください。

 

IV、手すり

  • 便器の両側に堅固に設置する。
  • L型の手すりを壁に取り付ける。もうひとつは片側に可動式を取り付ける。
  • 壁の手すりが可動式となり、それに手を置いて身体を支える事になる。もう一つの手すりは固定式で便座の真ん中の短いものを取付ける。

 

画像-1

L型の手すりを壁に取り付ける。

 

画像-2

可動式は水平に移動するものと、上にあげるものと二つあるが、トイレ内の広さ、手洗いなど他のものとの兼ね合いに応じて設置してください。

 

  • 手すりの高さは車椅子のアームレストと同じ高さ(65~70cm程度)に。

V、便器洗浄装置

  • 便座に腰掛けたまま利用できる位置及び車椅子に乗ったまま利用できる位置に設置する。
  • 大型のレバー式、くつべら式押しボタン、光感知式のものなど、操作のしやすい形状とする。

 

VI、ペーパーホルダー

  • 便座に腰掛けたまま使用できる位置。手すりに取付けてもよい。

 

VII、手洗器・洗面器

  • 洗面器の下端設置高さは65cm程度とし、可能な限り薄型のものを設置する。

 水栓器具はレバー式、光感知式など簡単に操作できる物とする。

  • 場所を取らない物が良い。

 2m四方のトイレに手洗器を設置する場合、身障者用トイレのモデルの位置でよい。車椅子がトイレ内で自由に動けて邪魔にならない場所で、車椅子に乗ったまま利用できる場所に取付ける。

  • 便座に座ったままで、手が洗える所に壁埋め込み式を設置されたし。

 

VIII、汚物入れ

  • 汚物入れは一般のものより大きくし、手の届く範囲に設置する。

 

IX、緊急用ブザー

  • 便座に腰掛けた状態で便座前方で手の届く位置に設置する。
  • 公共の施設での障害者用トイレでは、確認ランプは便所の入口と人のよく集まる場所とかホール、受付等の二ヶ所に設置する。やかましくない程度に、音がするもの。
  • 転倒した場合にも利用できる位置に設置できればよい。
  • 緊急用ブザーは病院でよく採用しているものをお願いしたい。

 (画像−1参照)

水洗コック()、緊急用ブザー、ペーパーホルダー等は手が届く所に置くのは当然だが、身障者の場合、手が不自由な人も要るので、お互い近くにある方が無難です。また、腕の力がない人でも肘で押す事が出来るような場所に水洗コック()、緊急用ブザーがあればよい。

 

X、床仕上げ

  • 床面はぬれても滑りにくい仕上げとする。
  • 水平に仕上げる。

 

XI、照明

  • 導尿する人の為、なるべく明るいほうがよい。
  • 導尿する人の為、手鏡を準備してトイレ内に置いておく。
  • トイレ内の照明のスイッチは手が届くように低い位置に(1m位)。

 

XII、背もたれ

  • 背もたれを取りつけ、うしろに倒れた場合でも怪我をしないようにする。
  • 背もたれを取りつける場合、便器のふたは不要です。
  • 背もたれがない場合、多くのセキ損ケイ損の車椅子生活者は、便座に座った場合、かなり危険ですから、是非取り付けてください。

 

XIII. トイレファン

  • 脱臭のためトイレファンを取り付ける。
  • 照明と連動したスイッチにする。

 

XIV、鏡

  • 車椅子が回転できないスペースのトイレには、車椅子使用者が後向きで出る場合の事を考慮して、後方を確認することが出来るように鏡を設置する。

 

XV、その他

  • 図−1、2、3、4には介助スペースとして便座の前と横には設けているように、人が座れるくらいのスペースが有ると便利です。
  • ケイ損の場合座位バランスの悪い人が多く、狭いトイレだと壁に頭をぶつける事があります。(筆者体験)
  • ケイ損が身障者用トイレを利用することは少なく、多くはベッド上で処理します。

 (管理人は我が家のトイレで排便する事はあまりないです)

  • ケイ損がトイレを利用する場合、介助者が介助すると思いますが、介助者が楽なトイレが本人にとっても楽なのです。なおケイ損用トイレというのは2m四方の広いスペースが必要な特別なトイレで、ここでは説明しません。

トイレメーカーの中には45cm高の身障者用トイレやその付属品をすでに販売しているところもあり、身障者が扱いやすいウォシュレットも既に製造しています。パンフレットなど準備しているはずです。